ガダラのピロデモスフィロデモス、古希: Φιλόδημος Philodēmos 羅: Philodemus、前110年ごろ - 前30年ごろ)は、古代ローマのエピクロス派の哲学者・詩人。散佚していた著作が18世紀にヘルクラネウムのパピルス荘から出土し、21世紀まで解読が続いている。

人物

ヘレニズム期シリアのガダラ出身。アテナイの「エピクロスの庭園」でシドンのゼノンに学ぶ。第三次ミトリダテス戦争の難を避け、前70年代ごろローマに移る。そこでユリウス・カエサルの義父ルキウス・カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスに庇護される。そのピソの別荘がヘルクラネウムのパピルス荘であり、ピロデモスも寄居したと推測される。同地近郊のナポリ(ネアポリス)で講義したとも推測される。

関係

同時代のナポリには、エピクロス派のシロンを中心人物として、詩人ホラティウスやウェルギリウスも関与したエピクロス派のサークルがあり、ピロデモスも関与したと推測される。エピクロス派のルクレティウスも活動時代は近いが、関係は不明である。

同時代のキケロは、『ピソ弾劾』(羅: In Pisonem)68-72節で、ピロデモスを暗に罵倒している。

10世紀ごろ書かれた詩学書『コワスラン論考』の喜劇論は、アリストテレス『詩学』第2巻の喜劇論に由来すると推測されるが、同書の喜劇論以外の箇所は、一説にはピロデモスに由来するとされる。

著作

出土パピルス

ヘルクラネウムのパピルス荘から、多分野にわたる著作のギリシア語パピルス写本が発見された。その多くは古代哲学の貴重な資料となっている。18世紀出土当時のパピルスは黒焦げで解読困難だったが、その後解読が進み、ピロデモスの著作と判明した。

解読された著作の例として、エピクロス派の神学書『神々について』『敬虔について』、類比的推論(アナロギア)を扱った論理学書『徴証について』、倫理学書『怒りについて』『死について』『率直な批判について』、文芸論書『詩について』『音楽について』、修辞学書『弁論術』などがある。

このうち『徴証について』には上記シドンのゼノン、『弁論術』にはナウシパネス(エピクロスの師にして論敵)への言及があり、これら言及対象についての資料にもなっている。

2010年代には『アカデメイア派の歴史』の解読が進展した。

その他

『ギリシア詞華集』に30篇余りの恋愛詩が収録されている。同書日本語訳者の沓掛良彦は、その詩を優雅で軽妙と評している。

ディオゲネス・ラエルティオスは『ギリシア哲学者列伝』で、ピロデモスの『哲学者総覧』を原資料として度々参照している。この『哲学者総覧』は現存しないが、上記『アカデメイア派の歴史』などがその一部である可能性がある。

脚注

参考文献

  • A・A・ロング 著、金山弥平 訳『ヘレニズム哲学 ストア派、エピクロス派、懐疑派』京都大学学術出版会、2003年。ISBN 9784876986132。 
  • A・A・ロング 著、村上正治 訳「ローマ哲学」、デイヴィッド・セドレー 編『古代ギリシア・ローマの哲学 ケンブリッジ・コンパニオン』京都大学学術出版会、2009年。ISBN 9784876987863。 
  • 沓掛良彦『ギリシア詞華集 1』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2015年。ISBN 9784876989119。 
  • 國方栄二『ギリシア・ローマ ストア派の哲人たち セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウス』中央公論新社、2019年。ISBN 9784120051579。 
  • 小池澄夫 著「エピクロスと初期エピクロス学派;エピクロス学派の書物 羊皮紙綴本・パピルス・碑文」、内山勝利 編『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者 古代2』中央公論新社、2007年。ISBN 9784124035193。 
  • 近藤智彦 著「ヘレニズム哲学」、神崎繁・熊野純彦・鈴木泉 編『西洋哲学史 II 「知」の変貌・「信」の階梯』講談社〈講談社選書メチエ〉、2011年。ISBN 978-4062585156。 
  • 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年。ISBN 9784876989256。 

外部リンク

  • Philodemus (英語) - スタンフォード哲学百科事典「ピロデモス」の項目。

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